水遊びを過度に怖がらず、知らないままにもしておかないために
犬と川へ遊びに行くとき、「レプトスピラ症」という病気が気になる方もいると思う。
私自身、犬が水の中を泳いだり潜ったりする姿を撮影するWaterDog.を行っていることもあり、以前から気になっていた病気の一つだった。
それに加えて、私にはもう一つ、どうしても頭をよぎる出来事がある。
かつて一緒に暮らしていたゴールデンレトリバーは、水遊びが大好きだった。水たまりを見つければ自ら突っ込んで泥だらけになり、川へ行けば喜んで水に入り、泳ぐことや水とと戯れることを心から楽しんでいる犬だった。
けれど、その子はわずか6歳で急性腎不全になり、亡くなった。
当時、死因としてレプトスピラ症を告げられたわけではないし、今となっては、何が原因だったのかを確かめることもできない。それでも、レプトスピラ症が腎臓に影響を与える病気だと知った昨今、「もしかすると、あのときの腎不全は、レプトスピラと何か関係があったのではないか」と毎度考えてしまう。
そして、その経験があるからこそ、川遊びの楽しさだけでなく、自然の水辺にどのようなリスクがあるのかも、きちんと知っておきたいと思うようになった。
今回は、WaterDog.を撮影する立場として、きれいな写真や楽しそうな姿だけを見せて、どのようなリスクがあるのかを伝えないのも違うと思ったので、犬の川遊びとレプトスピラ症について、公的機関などが公開している情報を調べ、自分なりに整理してみることにした。
この記事では、水遊びをする際に知っておきたい一般的な情報と、自然の中で犬を撮影する立場として、私自身がどのように考えているのかをまとめたものになる。
レプトスピラ症とは
感染経路や症状は?
レプトスピラ症は、レプトスピラという細菌によって起こる感染症で、犬だけでなく人にも感染する人獣共通感染症とされている。
レプトスピラは、ネズミなどの野生動物をはじめとする哺乳類の腎臓に保菌され、尿とともに環境へ排出される。犬や人は、その尿に直接触れたり、尿で汚染された水や土壌に触れたりすることで感染する場合がある。
犬が感染した場合、発熱、元気の低下、食欲不振、嘔吐、脱水などから始まり、重症化すると腎臓や肝臓に障害を起こす可能性がある。感染していても症状が分かりにくい場合がある一方、治療が遅れると命に関わることもある病気とされている。
ここだけ読むと、かなり怖い病気に感じる。
なぜ川遊びで話題になるのか
レプトスピラは、感染した動物の尿で汚染された河川、池、泥、土壌などを通じて感染する場合がある。
厚生労働省も、日本国内で感染動物の尿に汚染された池や川で水遊びをし、感染した人の事例が報告されているとしている。また、雨や洪水の後は、汚染された土壌が上がってくることや、ネズミなどの動物と接触する機会が増えたりすることで、感染リスクが高まる可能性があるとして注意を促している。
一方で、レプトスピラは水辺だけに存在するわけではない。
つまり、都市部や日常生活圏内で感染機会がないとは言えない。日常生活の中でも、たとえば雨上がりの道路にできる水たまりや、普段遊んでいる公園でも感染の可能性は充分にある、ということだ。
それでも川遊びがよく話題になるのは、犬が長時間水や泥に触れたり、水を口にしたりする機会が増えるからだと思う。犬は残念ながら、人間のように、「この水は飲まないでおこう」「傷口を濡らさないようにしよう」などといった判断を自分ですることはできないから、楽しそうに泳いでいるうちに水を飲んでしまうこともあるし、岩や枝でついた小さな傷に、飼い主が気づいていないこともある。
だからこそ、水遊びの機会を提供する側が、事前に知識を持っておくことには、意味がある。
ワクチンを接種すれば安心か
犬のレプトスピラ症には、予防のためのワクチンが存在する。
日本でも、レプトスピラのいくつかの血清型を対象とした単独ワクチンや混合ワクチンが承認されている。
ただし、レプトスピラには複数の血清型があり、それらワクチンがすべての型を網羅しているわけではない。
むしろ、ワクチンは数ある型のうちの数種類にしか対応していないと言った方がよさそうだ。
だから、ワクチンを打てば絶対に回避できるというものではないし、生活環境や地域、犬の体調、年齢、過去のワクチンへの反応によっても、接種の考え方は変わる。
そのため、
「川へ行くなら、必ずこのワクチンを打つべき」
「ワクチンを打っていれば絶対に感染しない」
と、断定することは難しい。
国際的な犬のワクチンガイドラインでも、レプトスピラワクチンは、その犬が暮らす地域や生活環境における感染リスクを踏まえて、接種プログラムに含めることが推奨されている。川遊びやキャンプ、山歩きなど、水や土、野生動物との接触が多い生活をしている犬は、普段の生活環境をかかりつけの獣医師に伝えたうえで、接種について相談するのがよいと思う。
「何種混合ワクチンを打っているから大丈夫」と自己判断するのではなく、接種しているワクチンにレプトスピラが含まれているのか、どの血清型を対象としているのかといった情報を知っておくことで、安心につながると考える。
WaterDog.を撮影する側として考えていること
WaterDog.では、自然の水辺で犬を撮影する。
水の中を泳ぐ姿や、潜った瞬間の表情、太陽の光を受けて水しぶきが輝く瞬間は、陸上の撮影では残せない魅力があると考えている。
一方で、自然の川は環境が整えられたスタジオではなく、見た目によらない水質・流れ・水深・気温・天候・地形・野生動物の存在履歴など、こちらが完全に管理できない要素が多くある。だからこそ、写真だけを見て「楽しそうだから大丈夫」と考えるのではなく、撮影する側も、参加するオーナーさんも、自然の中で行う撮影であることを理解しておく必要があると思っている。
現時点で、WaterDog.撮影を行ううえでは、少なくとも次のような点を意識している。
直前に雨が降った場合や、川が増水している場合、水が濁っている場合は、撮影の実施を見送る。
(当社では、撮影決行日の前3日で雨が降っていないことを前提として、撮影事前に川の状態(増水・水濁)を確認した上で実施可否を決定している)
犬の体調が悪い場合や、皮膚に目立つ傷がある場合は、見送りの決断を恐れない。
撮影中は、犬が水を大量に飲ませないように注意し、撮影後は犬の身体についた泥や汚れを落とすなどといった基本的な所作を大切にする。撮影中の犬の行動は、傍に構えるオーナーさんには気づかない一方で、ファインダー越しに見ている私に気づくことが、意外と多い。
とはいえ、これらを行えば感染を完全に防げるという意味ではないし、自然の中で活動する以上、リスクをゼロにすることはできない。
大切なのは、危険性を隠したり、逆に過度に恐れたりするのではなく、分かっている範囲の情報を共有しながら、その日の状況と一頭一頭の状態を見て判断することだと思っている。
気をつけたいのはレプトスピラだけではない
川遊びには、レプトスピラ症以外にも気をつけたいことがある。
特にWaterDog.では水が綺麗な清流、つまり、水が綺麗である反面、水の温度が冷たい場所がロケ地になる可能性がある。
思いつくリスクは数ある。
・川に流されること。
・岩や枝で足を傷つけること。
・長時間水に入ることで身体が冷えること(人間のほうが先に根を上げることが多い)
・水を飲みすぎること。
・藻や異物を口にすること。
・犬同士の接触や、野生動物との遭遇。
感染症だけに意識が集中すると、目の前にあるほかの危険を見落としてしまう可能性もある。
だから私は、レプトスピラ症について知ることを、「川へ行くか、行かないかを決めるための情報」とするよりは、犬と自然の中で遊ぶときに、どのようなことに目を向ければよいのかを考える、一つのきっかけとして捉えたいと思っている。
怖がるためではなく、楽しむために知っておく
レプトスピラ症について調べるほど、川遊びが怖くなってしまう人もいるかもしれない。
私自身も、前記したゴールデンレトリバーのこともあるから、気にならないと言えば嘘になる。
それでも、将来犬を迎えたら一緒に川へ行きたいと思っているし、リスクがあるから自然の中に連れていかない、という考えには、今のところ至っていない。
犬と一緒に水辺で過ごす時間には、室内では得られない楽しさがあると思っている。
初めて水に入ったときの戸惑った顔。
泳げることに気づいた瞬間。
飼い主さんの方へ一生懸命戻ってくる姿。
水から上がったあと、満足そうに休んでいる表情。
WaterDog.で残したいのも、単に犬が水に入っている写真ではなく、そうした一頭一頭の体験や、その日にしかない瞬間だ。
危険を知らないまま遊ぶことと、知ったうえで判断することは違う。
だから、きれいな部分だけを見せるのではなく、水遊びに伴うリスクについても伝えておこうと思った。必要以上に怖がるのでもなく、「今まで大丈夫だったから」と軽く考えるのでもなく、被写体の体調や生活環境、その日(むしろその前々日までも含めて)の川の状態を見ながら決めていく。
WaterDog.も、そのような考え方の上で続けていきたいと思っている。
※この記事は、WaterDog.を撮影する立場から、公的機関や獣医療機関が公開している情報をもとに、水遊びとレプトスピラ症について調べた内容をまとめたものです。愛犬の健康状態やワクチン接種については、かかりつけの獣医師へご相談ください。

